令和5年1月から各都道府県のホストコンピュータを警察庁のホストコンピュータに切り替えることが決まっています。当社では『協会ネット(K-Net)』で県内の全ての教習所と教習所協会、そして免許課をネットワーク化し、情報交換できる仕組みを提供してきました。
更に一部の県では県警ホストとデータ連携させていますので、今後、全国的にこの対応を進めることになります。
2020年(令和2年)12月25日に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」の中で運転免許証のデジタル化の方針が決定されました。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/201225/siryou4.pdf
「デジタル・ガバメント実行計画 令和2年12月25日閣議決定」
の中に、下記のような記載があります。
運転免許証のデジタル化
運転免許証について、2024 年度(令和6年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。双方のシステムを連携させることにより、住所変更手続のワンストップ化、居住地外での迅速な運転免許証更新やオンラインによる更新時講習受講が可能になる。
これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを 2024 年度(令和6年度)末までに警察庁の共通基盤上に集約する。モバイル運転免許証の国際規格の策定状況及びマイナンバーカードのアプリケーション化の検討状況も踏まえ、諸外国との相互運用性の確立も視野に、運転免許証の在り方の検討を進める。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/201225/siryou4.pdf
「デジタル・ガバメント実行計画 令和2年12月25日閣議決定」
運転免許証のデジタル化の中に、「警察庁の共通基盤」と書いてあります。
警察庁の共通基盤について、「警察庁 デジタル・ガバメ ント中長期計画」
に具体的な記載があります。
警察庁 デジタル・ガバメ ント中長期計画
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/cio/siryou3/07keisatu/honbun.pdf
警察庁においては、警察庁が所掌する業務に必要な各種の情報システムを整備・運用しているところ、当該業務が適切かつ効果的に行われるよう、必要な情報システムの見直し・改善を行う必要がある。
特に、警察情報管理システムについては、警察庁及び都道府県警察が 個別にシステム整備を行っており、業務間及び都 道府県警察間におけるデータ標準化が不十分である、同じ仕組みを複数構築運用することにより整備・維持に係るコストが高止まりしているなどの課 題があり、合理化 ・高度化を行う必要がある。また、各都道府県警察における業務がデジタル社会に対応していくよう必要な調整等を行い、警察業務に関する行政手続については、警 察活動の円滑遂行に留意しつつ、国民が利 用しやすいものとなるよう改革等を推進する必要がある。
警察庁 デジタル・ガバメ ント中長期計画
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/cio/siryou3/07keisatu/honbun.pdf
「警察庁の共通基盤」とは、簡単に言えば、これまで警察庁と各都道府県の
警察の情報システムがバラバラだったのを、1つの大きな統一した情報システムに変えましょう、というものです。
例えば、現在、千葉県と埼玉県の警察では、全く異なる別の情報管理システムが運用されていますので、警察業務に関する行政手続が異なるだけでなく、警察活動も異なっております。また、情報管理システムの構築および維持管理費用もそれぞれ必要になりますので、合わせると2つのシステムで2倍の費用がかかっています。
現在は、47都道府県でバラバラの情報管理システムですので、開発と維持に47つ分の費用となり、その負担は税金として、国民が負担しているのです。そこで、警察庁が各都道府県用の統一化した情報システムを構築し、そのシステムを利用することで、47都道府県が全く同じシステムを利用できることになります。
全ての都道府県で情報管理システムを統一することで、費用は47分の1とまではならないものの、数分の一以下に抑えられるのは、中学生でも理解できると思います。
なぜ、警察庁と各都道府県の警察の情報システムがバラバラなのか?
戦後、連合国軍最高司令部(GHQ)は日本の警察を「天皇制の維持擁護を目的にした非民主的な組織である」と批判して警察の制度改革を主導し、1947年に(GHQ主導で)「旧警察法」が制定されました。
「旧警察法」では、警察の任務の限定、警察力の地方分散、民主的警察組織の確立を目指して「自治体警察」による警察組織の地方分権化が進められました。
その後、1952年のサンフランシスコ講和条約を経て日本が独立・主権回復すると、「新警察法」によって、「自治体警察」は正式に廃止され、都道府県警察を主体とし、国家公安委員会・警察庁の国の組織がそれらを補完するという現在の体制に変更されました。つまり、今の日本の「新警察法」では、中央集権的な警察庁と47都道府県の警察で成り立っています。
各都道府県警察の財政負担は、都道府県庁の予算となります。つまり、各都道府県警察は独自の予算で、独自の情報システムを構築してきました。その結果、各都道府県警察における情報システムの投資額に大きな差ができ、結果的に各都道府県警察の情報化の格差を広げてきました。
https://www.npa.go.jp/policies/budget/yosanjouhou/R1_1_4houkokusyo.pdf
アクセンチュア株式会社から「警察情報管理システムの合理化、高度化に関する調査研究業務実施報告書(概論)」という報告書がでました。
アクセンチュアは、従業員数は世界で約48万人、拠点数は世界56カ国 200都市以上(2019年現在)の世界最大級の経営コンサルティング会社です。
以前の社名は、アンダーセン・コンサルティングという社名でしたが、アメリカ合衆国のトップ監査法人だったアーサー・アンダーセンのコンサルティング
部門が独立した会社です。
IT業界ではその名を知らない人はいないくらい、世界トップレベルのITコンサルティング会社ですから、この報告書にはかなりの重みがあります。
それでは、アクセンチュアの報告書を参考にして、「警察庁の共通基盤」の
解説を行いたいと思います。
現在の警察における情報管理システムの問題点は?
警察における情報管理システムには、警察庁が全国斉一的に管理する警察庁情報管理システムのほか、各都道府県が個別に整備した情報管理システムがあり、各都道府県の情報管理システムは、それぞれの都道府県の予算で独自に開発されています。
また、ホストコンピュータにメインフレーム(大型汎用コンピュータ)を利用していることもあり、ベンダーロックインという状況が意図的に作られ、膨大な維持管理費がかかる上に、各都道府県で異なった仕様、異なった運用となっています。
ベンダーロックインという競争のない世界によって、各都道府県の情報管理システムはメインフレーム(大型汎用コンピュータ)による数世代前の技術を未だに利用していることもあり、柔軟性が低く、膨大な維持管理コストがかかっており、さらに、警察庁情報管理システムが管理しているデータと差異があり、全国的に合理化、高度化をする障壁になっています。
ベンダーロックインとは?
ベンダーロックインとはあまり聞きなれない言葉だと思います。
情報管理システムの開発・構築を請け負う会社をベンダーといいます。
システムを開発・構築する際に、発注元(この場合は警察の内部)に詳しい人材がいないと、システム開発を「丸投げ」して出来上がった情報管理システムになります。「丸投げ」すると、正確な仕様は、システムを開発・構築したベンダーにしか解らなくなり、その結果、システムの保守・拡張・改修等の際、システムを開発・構築したベンダーに引き続き発注せざるを得なくなるという状態をベンダーロックインといいます。
ベンダーロックインが起こっている場合は、次期システムを構築する際に、表面では「一般競争入札」という形をとっていても、「仕様書の作成」時点からそのベンダーに協力を依頼することになります。ベンダーは自社が入札できる条件を仕様書内に埋め込みますので、結果的に「一般競争入札」を行ってもそのベンダーが受注することになります。また、その後は「随意契約」というそのベンダーしか受注できなく仕組みによって、保守サービスや改修作業をそのベンダーが独占して受注し続けることになります。
つまり、ベンダーの立場から言えば、「ベンダーロックイン」は意図的に作り出すものであり、非常においしい商売と言えます。
全国の警察の情報管理システムはどのような状況でしょうか?
現在の、全国の都道府県警察の情報管理システムはN社が事実上独占しており、他社へのリプレースを防ぐために特殊な製品・技術・仕様が組み込まれたシステム構成で、ベンダーロックインとなっています。
さらに警察庁と各都道府県では、システムの規格化やデータの標準化が十分でなく、互換性がないので、お互いの情報システム間の連携が困難で、かつ最新技術の導入が難しい状況です。また、障害時の対策も十分でない都道府県もあるとのことです。
警察庁の「共通基盤システム」とは?
警察庁がホストコンピュータを準備して「共通基盤システム」を構築し、各都道府県の警察は、そのシステムを利用できます。
共通基盤システムは、全国の都道府県の警察情報管理システムの規格を統一し、データを標準化することで、全国で同じ仕様のシステムとして提供します。
全国の都道府県の警察が警察庁の「共通基盤システム」を利用することで、開発コスト、維持コストを削減するだけでなく、最新の技術の導入やデータの連携を可能にするというものです。
民間企業では、何十年も前の企業間のデータ連携や業種を超えたデータ連携を実現していますが、警察はN社によるベンダーロックインによって、レガシー(前世代の技術)を引きずってIT化が大幅に遅れていました。現在の政府によるデジタル・ガバナンスの方針によって、ようやくベンダーロックインの暗闇から抜け出し、IT化やデジタル化が進むことになると思います。
協会ネット(K-Net)とは?
当社では、協会ネット(K-Net)というパッケージソフトを提供しています。現在は、6つの県(長崎県、福岡県、千葉県、新潟県、北海道、香川県)で利用されています。拠点数(教習所と警察、教習所協会の総数)は、250を超えています。この種類のソフトでは、全国NO.1のシェアとなっています。
協会ネット(K-Net)とは、簡単に言えば、同じ県内の自動車教習所と自動車教習所協会、県警の免許課をネットワークで結んで、電子申請やデータ連携、情報交換をする仕組みです。
例えば、新潟県の場合、新潟県指定自動車教習所協会と新潟県警、新潟県内のすべての自動車教習所37校がVPN回線で接続され、高齢者講習や認知機能検査の実施計画や報告を電子化して、データ交換ができます。
自動車教習所で実施した認知機能検査の結果や高齢者講習の結果が受講後、その日のうちに電子データとして新潟県警に送付されます。新潟県警では講習当日にすべての教習所の実施結果を電子データとして、入手することができます。
また、香川県の場合、香川県警と3か所の運転免許センター、香川県内のすべての自動車教習所 15校がVPN回線で接続され、高齢者講習や認知機能検査の実施計画や報告を電子化して、データ交換ができます。また、高齢者講習のWEB予約システムも運用中です。高齢者の方が、更新はがきに記載している番号をスマホで入力すると、簡単に希望の日時を予約ができる仕組みです。
協会ネット(K-Net)のシステムは、3階層の構造となっています。教習所と協会がVPN(仮想専用)回線でつながり、その上位に警察が利用するシステムがあります。この3階層の構想で警察のセキュリティを高めています。
協会ネット(K-Net)は、15年以上前に長崎県で生まれ、その後、上記の都道府県に導入されました。
今後、協会ネット(K-Net)が警察庁の共通基盤との連携に対応することで、今後、他の県でも大きな投資なしで、新潟県や香川県のようなシステムが導入できるようになると思います。
まずは他県に先行して、新潟県で令和5年1月から警察庁の共通基盤に対応した「日本最先端の高齢者講習システム」が稼働する予定です。来年6月の高齢者講習の法改正も控えておりますので、新しい情報があれば、随時、案内していきたいと思います。